白い音色





 ―――ベンッベンッ

 まるで今の時代を感じさせるような、弦を弾く音が聴こえた。
 今日あれほど騒がれたあの声は今やどこへやら・・・スッカリと静寂に支配されてしまった。
 しかし何故かそれは、俺にとっては都合の良い。何故なのかは分からないのだが・・・。

 ―――ベンッベンッ

 再び弦が震え奏でる調べが流れた。それは誰かを呼んでいるのだろうか・・・?
 暗闇に包まれたこの空間で、弦は悲しそうに声を上げた。

 覗いてやろうと襖を1センチほど開けると微かにニコチンの臭いがし、俺は思わず顔をしかめた。
 しかし覗いた部屋には明かりが点いておらず、次は眉間にしわを寄せた。



 何故だ?



 「拙者は退殿が訪れる事を待っていた・・・。」
 「・・・・・・。」



 ―――ベンッベンッ

 この時代を感じさせるメロディは部屋中に響き、しかし俺の耳には届かない。
 何故・・・敵である奴は俺を出迎えるのか?理由さえ見当たらないものだった。

 ただ一つ俺に分かった事がある。
 河上万斉、それが俺の敵である。いや、これは『分かった事』ではなく『分かっている事』なのだが。



 「いつからここにいると分かっていた?」
 「答えを出す間でも無いでござろう?」
 「!?」



 河上は俺が再度口を開こうとした瞬間、鋭い『風』が俺を襲った。
 未だ暗闇に慣れていない目では判断し難く、避ける前に胸に強い衝動が伝わる。
 どこから取り出したのか、河上はギラリと怪しく光る刀を手にし
 俺の喉元に、器用に数ミリ離したところで寸止めした。

 そうだ、敵同士なのだからこのような行為をされても不思議でないだろう・・・。
 河上が身につけているサングラスの奥の瞳は大体予想は付いた。
 笑っている・・・と思えば俺の背筋は凍り、額に冷や汗を掻くものだ。



 「万斉・・・今俺を殺すんだったら、どうしてあの時は助けた?」
 「言ったはずでござろう。」



 河上はフッと口の端を上げ笑う。それは「待っていました」と言わんばかりの笑み・・・。



 「拙者は・・・退殿の姿が奏でる不思議な調べを聴いていたいだけ・・・。」
 「なっ・・・!」



 解かれる黒い鎖は逃げていく・・・。
 このようなことがあるのであれば、いっそそれで殺してほしいものだ。俺はそう思う。
 分かってしまった、だがその答えを返す気など・・・。

 河上は刀を鞘に納め、背を向けた。
 今や身も自由になったはずの俺の体は動かない、まるで金縛りにでも遭ったかのように・・・。



 「退殿。」
 「・・・・・・。」
 「今日の聖夜は・・・拙者と過ごさないでござらぬか?」























 嗚呼・・・嗚呼・・・俺は知ってしまった・・・。
 この人は・・・俺に恋してしまったのだ・・・。





















 ブログから執筆:2008/12/24