あなたのためなら死ねます、などというのは言い訳なのだ。
おまえのためなら生きれる、などというのは言い訳なのだ。
二人ともそれを知らずに、ただただお互いを言い訳にし続ける。
あか
山崎は床に入りながら、真っ赤に腫れた頬をなでた。
これは、彼の恋人に殴られたものである。
いくらミントンをやっていても、彼がこんなになるまで山崎を殴り続けたのは始めてのことだった。
山崎はどうも脳みそが足りていない。
なので、なぜ自分がここまで殴られたのか全くわかっていないのだ。
自分は、真選組隊士として正しいことをした、と今でも思っている。
「何でこんなことをした。」
「これが正しいことだと思ったからです。」
「なら、お前の正義は間違ってるんだな。」
すっぱりと言い放たれたその言葉は、重い拳とともに振ってきた。
傷口が開いたらどうしよう、なんて少しずれたことを山崎は思っている。
何でこいつはわかってくれない、と土方は思っている。
だが、山崎は一言も痛いといわなかったし、土方は自分がなぜ怒っているか一言も言わなかった。
その言葉が無いと土方はいつまでたっても拳を振り下ろしつづけるし、山崎は一生土方の真意を理解できずに死んでいくのだろう。
ただ、お互いにそのことを理解できずにいる。
「貴方を生かし、真選組を存続させ、拡大させることが俺の仕事です。」
「そんな仕事いらねぇんだよ。」
「そしたら俺ら副長助勤の意味がありません。」
血の気がうせた山崎の顔は、白を通り越して青かった。
土方はそんな山崎の顔色を見るたびに、死んだような心持になる。
自分がここに帰ってこられるのは、山崎がここに存在するからと言う理由が大きい。
死なれたら、俺はどうやって生きればいい。
考えていたことが口に出ていたのか、山崎はきょとんと土方を見ていた。
自分が土方を庇ったのは、もちろん彼を生かすためだが、もし自分が死んだことで彼が生きられないのなら、自分は生きなければならない。
「ふく、ちょう。」
「おまえは、おまえがいるから、おれはいきてここにかえってくる。それじゃ、だめか?」
「ふくちょ、ふくちょ、」
そして甘い蜜事が始まる。
結局のところ。
二人ともお互いにではなくこの依存関係に依存しているのだ。
水が無い環境でも、きっと山崎は適応するのだろう。
それは、空気が無い環境でも生きてゆけるであろう土方も、気が付いている。
だけどいま、このしゅんかん。
おたがいにおたがいがしぬほどひつようなのはかわりばえのないじじつなのだ。
布団に入った山崎は、もう一度自分の頬を触った。
先ほどのことを今一度思い出してみたけれど。
やはり自分の殴られた理由はわからないのだ。
そんな日々の、繰り返し。