死人






屯所には、ずっとすすり泣くような声が響いていた。
そのすすり泣きの声にあわせて、少量の笑い声が響く。
漆黒の髪の毛を持った少年は、笑っている。
自分の主の隣で、ただただ、笑っている。
それしか知らないように、笑っていた。


沖田が屯所に帰ると、そこはとてつもなく暗い空気に包まれていた。
さすがに遊びっぱなしというわけにはいかず、土方に命じられた巡回。
江戸の町を軽く回って帰ると、何故か自分が出たときとは明らかに違うそれが聴こえた。


「じか…長…かわいそう…まだ若…」


その、遠くからの声で大体内容は想像できた。
沖田も土方も、真選組に所属している。
決して楽な仕事ではないことは、本人達が一番自覚している。


その覚悟も、とっくのとうに出来ている。


沖田がその隊士に話し掛ければ、やはりそれは沖田の想像どおりのことが起きていた。
それをいった隊士にお礼をいい、土方の私室へと足を向けた。
別れを言うためでも、けなしにいくわけでもない。
ただ、最後に顔が見ておきたかった。



土方十四郎が、死んだ。


死因は簡単。
隊士を守って死んだのだ。
いや、この場合は恋人といった方が正しいかもしれない。


子どもをかばおうとしたらしい。
むやみやたらに命を大事にするところが土方は好きだったから、彼にとってこれは当たり前のことだった。
しかし、全人類が命を大事にするわけではない。


子どもを助けに飛び出したその隊士に、浪士は刀を振るった。
逃げれば子どもに当たる。
逃げなければ自分が斬られる。


その隊士は、動かなかった。

その代わりに、土方が動いたのだ。
盾になった土方は、即死。
それに逆上したその隊士は、我を忘れて全てを切り捨てた。


剣が苦手だったその隊士は、その場に居た浪士30人を、全て一人で切り伏せた。


沖田が襖を開ければ、そこには真っ赤に染まったその隊士と、青白い顔をした土方が横たわっていた。
襖の音にも動かずに、隊士はただただその骸に話し掛けていた。
死んでいることが、受け入れられないのだ。


「土方さん。ねぇ、そろそろ夕食ですよ。起きなきゃダメじゃないですか。」


黒い髪の毛は、ふらふらと動きながら言葉をつむぎだす。
その後ろで、近藤が大泣きしていた。
大人なのにね、なんて沖田が想えば、近藤は沖田のほうを向いた。


「総悟…。」


何も言うなと口パクを沖田がすれば、近藤はまた下を向いて泣き出した。
そんな近藤の声に気が付いたのか、山崎も、沖田を見る。
生気なんか、全く残っていないようだった。


「あ、沖田さん。もう夕飯の時間ですか?」
「あぁ。土方のこのやろーは俺が起こしておくから、お前は飯に行け。」
「え、でも。」



いいから。



強めの口調で沖田が諭せば、山崎は素直に食堂へ向かう。
そのうちに、と沖田は土方の骸を運び出す。
近藤も黙ってそれを手伝っている。


棺にそれをしまえば、もう30分も経っていた。
そろそろ、山崎も飯を食い終わる頃だろう。
沖田は、考えていた。


どうすれば、あいつはこの状態を受け入れるのだろうか。
どうすれば、あいつが一番傷つかないのだろうか。
どうすれば、あいつはこいつを忘れてくれるのだろうか。


そんな考え事をしながら襖を開けば、その場に山崎はうずくまっていた。
土方の部屋は、どうした、なんて聞ける状態じゃない。


布団は切り裂かれ、
たんすは倒れて、
憔悴した山崎が、真ん中に座っている。


目だけをこちらに向けると、山崎はぱぁっと笑顔を浮かべた。
そのまま、沖田のほうへ歩いてくる。
沖田は動かずにそれを待った。
なぜか、この愛しい彼が考えていることが、手に取るように解ったから。


きゅっと制服のすそを掴むと、山崎は呟いた。



「お帰りなさい、土方さん。」



動こうとした近藤を沖田が止めて、そのまま抱きしめる。
哀しいはずなのに、沖田の脳みそはやけにスッキリしていた。
自分を見てもらえないのに、どうでもいいと思ってしまう。


幸せなら、それがお前の幸せなら。



おれは、いくらでも自分を棄てる。





すっと煙草を取り出す。
マヨネーズには慣れるのに時間がかかりそうだから、ダイエットとか言えばいい。
髪の毛は明日にでも染めよう。



訛りだって、なくても喋れる。



「おう、ただいま。」





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沖田さんのキャラ崩壊万歳。
沖田さんは動かしにくいです。(じゃあ書くな。
なんか、もし土方さんが沖田の状況になったら殴って正気に戻しそうですな。
だけどそれじゃ面白くない。(何様
篠原なら、きっと山崎を切り捨てますね。
僕を見ないあなたは要らないみたいな。(だから何様。
沖田だけだな、受け入れるのは。
若いからこそ、無茶をしようとする。
…支離滅裂失礼しましたぁぁぁぁぁぁぁ!