竜胆
泣き顔を見たときに、ものすごい征服感があった。
達成感とともに、独占欲も満たされてゆく。
あぁ、こんな幸せな瞬間があってよかったのだろうか。
そのまま崩れ落ちる男を見て、俺は笑った。
その静かな部屋には、布団しかない。
他のものが必要ないからだ。
…あと、この部屋の住民が自傷行為に走らないため。
そんなこの部屋の住民は、気だるそうに外を見つづけている。
まるで、なにかの助けを求めているように。
こちらを見ずに、ずっと窓の外ばかりを見つめる。
そんなこいつが、もう何も話さなくなってからどれくらいが経っただろうか。
だけどそれは、ただただ窓の外を眺めつづけた。
時に涙を流し、時に怒り、時に微笑みながら。
ただただ、誰かを待っているようだった。
その表情を横から見るのが俺の日課になっている。
いつ発狂するのだろうか。
そんなふうに考えるだけで俺の心は浮かれるのだ。
しかし、微笑んでいる表情だけは嫌い。
悲しみ、怒ればいい。
何回でも俺を罵ればいい。
なのに、あいつは途中からそれを止めた。
その神経は、理解不能で。
また俺は、窓の外を見つめるあいつを見つめることしか出来ない。
「おい、もう土方は死んだんだぞ。」
話し掛けたって何にも返ってこない。
それはわかっている。
わかっている。
「いつまでお前は野郎を待ってるんだ?」
黒く塗りつぶされたような瞳はこちらを見ない。
それはわかっている。
わかっている。
「いいかげん、飽きないのかよ。」
やっと、こちらを向いた、黒い瞳。
だけど、その先は俺を捕らえない。
それはわかっている。
わかっている。
「おい、なんか言えよ。」
すぅ、と空気をすう音がする。
さぁ、何を言う。
「…哀しいです。」
わかっている。
「寂しいです。」
わかっている。
「誰もいないんです。」
わかっている。
「あなたが、見られないんです。」
わかっている。
だから、わかっているのだ。
「あなたが痛すぎて、見られない。」
そんなの、俺が一番、わかっている。
「あなたが土方さんを殺したのなら、そんな哀しい顔をしないでください。」
「そんなお前も泣きそうじゃねぇか。」
「はい。哀しいですから。」
「もう、土方は返ってこないぞ。俺が殺した。だから、もうこの世界には居ない。」
そのままそれは、微笑んだ。
「わかっているんですよ。」
その微笑みは今まで見たことのないような感じだった。
なんだか、楽しくはなさそうだ。
ただ、笑うしか選択肢の無い顔だった。
「沖田さんも、近藤さんも。あなたが殺したんです、だから。」
おれも、さっさと殺せばいいのにね。
ダメだった。
殺せなかった。
そちらを見れなかった。
俺は、わかっていなかった。
ただただ。
俺は悲しんでいるそれの顔が見たかっただけ。
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よし、はちゃめちゃで終了!
こんな感じのが好きだな自分!
竜胆(りんどう)の花言葉は『悲しんでいるあなたが好き』。
いいねぇ!これ!
みたいな感じで書きました。
あぁ、誰も死なないものが書きたいね。