沼地





 事情後でぐったりした体を無理やり持ち上げ、山崎は服を着ていた。
 一晩をともにした相手は、もう早朝会議に出てしまったようだ。

 泥のように重い体をやっとのことで山崎が起こした頃には、もう居なかった。
 もしかしたら、ここで寝ていなかったのかもしれない。
 そう思わせるほど、山崎の部屋には伊藤の面影がなかった。



 (まぁ、彼のことだ。仕事だろう。)



 恋人がここに来る前に、この惨状をどうにかしなければならない。
 もし、見られたとしたら、きっと自分は明日足腰が立たないだろう。
 土方という男は、そういうやつだ。

 相手まではわからないにしろ、何をしたかは明らかな部屋。
 そしてあの頭のいい副長様なら、大体予想がつくだろう。



 「いって…。」



 痛む腰も、だるい体も、身体の中に残されたあの生暖かさも。
 全部、悟られてはいけない。
 明日足腰が立たない程度ならまだ良いが、明日から寝食をする場所がなくなるのはつらい。
 それくらい、きっとするだろう。

 かれは、それくらい山崎にご執心だったのだ。
 いや、だと良いという山崎の幻想かもしれないが。



 「山崎君?」



 控えめにふすまをノックする音と、これまた控えめな声が山崎に聞こえた。
 一瞬でこの惨状を作り出した張本人だと気付き、ふすまを開ける。



 「すまない、会議が長引いてしまって。」



 まるで約束をしていたかのように話す彼が面白くて、山崎はつい噴出してしまった。



 「なんだい、いきなり。」
 「いえ、先生がそんなこと気にするなんて思わなかったんで。」
 「仕方ないだろう。先に手を出してしまったのはこっちなんだから。」



 伊藤にも、恋人と呼べる人がいる。
 山崎の部下の篠原は、それはそれは伊藤のことを大事にしていた。
 それが、山崎にとっては羨ましく、妬ましかったのだ。

 自分の恋人は、まるで自分の事を性欲処理の道具、又はストレス発散のサンドバッグぐらいにしか思っていないだろう。
 なのに、この人は、こんなに思われているのだ。
 その劣等感が、山崎に浮気をさせた。

 いや、させようとした。



 「…本当に昨日はすみませんでした。」



 いきなり謝る山崎に、伊藤は驚いたような顔をした。



 「君は何に謝っているんだい?それに、キスまでしかして無いじゃないか。」



 ふ、と笑いながら伊藤は山崎を抱き寄せた。



 「…ありがとうございます。」



 バタン、と大きな音がした。



 「おい伊藤、てめぇ…。」



 伊藤の胸倉をつかむ土方を、山崎は必死で止める「ふり」をした。
 伊藤が、少し笑った。
 口が、動いている。



 が ん ば れ よ
 あ な た こ そ



 ふすまの向こうに篠原を見つけ、山崎も笑った。










 だってこれくらいしないと、貴方が俺を愛してるか解らない。
 だってこれくらいしないと、君は彼を諦めてくれないだろう。










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 土山←篠鴨前提の鴨山。
 まぁ要するに二人の狂言。
 ただ、キスまでは実際にやっちゃった、みたいな。
 しーのんは山崎を尊敬はしてるけど、愛してるのは鴨。
 それが鴨には伝わらないんだなぁ…(何様
 しーのん大好きです。(は