崩壊する二人羽織



狭い部屋に、火薬と血液のニオイだけが広がる。
綺麗な銀色は真紅に染まって、もう赤茶になり始めていた。
キラキラと散らばるガラスの破片は、フレームの中には二度と戻らないのだろう。


最後に、ピンクの少女を消してオシマイだった。
いくら最強の部族といえど、首をはねられたのは流石に致命傷らしい。
ごめんね、と少しだけ申し訳なく思って、山崎は万事屋を後にする。


土方は車にもたれ掛かっていた。
血みどろになった歌舞伎町を見て、ただ瞳を濁しているだけである。
考えてはいけない、と思っていても、やはり気が付くと思考はそこへとたどり着いているのだ。




どこで、道を間違えた。




もともと山崎はおとなしい部下だった。
ずっと、ずっと、土方の3歩後を歩いているような、そんな部下。
いつの間にか、後ろで「土方のほしいもの」を考えていたのか。


ふわり、と階段から山崎が飛び降りた。
それはそのまま綺麗に着地すると、土方のほうへと駆け寄る。
にこりと笑って助手席に座ると、そのまま土方を待っているようだ。


気持ち悪い、と思ってしまったのだ。


一緒に笑っていたはずの、メガネを殺した瞬間の笑顔に、自分は恐怖を覚えたのだ。
それは思ってはいけないことで、目をつぶらなければいけないことで。
なのに土方は、この「事実」を受け入れられていなかった。


「副長?どうしたんですか?」
「いや、なんでもない。」
「そうですか?ほら、次に行きますよ。」


笑顔の山崎が、怖かった。


土方は頭から先ほどの恐怖を消すと、運転席へと乗り込む。
吸っていたタバコは、とうの昔に捨ててしまっている。
新しいのに火をつけようとポケットへ手を伸ばすと、そこには何も無い。


「…あ…」


土方にしては珍しく、えらく間抜けな声が出た。
それに対して顔を真っ赤にしていると、隣からすっと箱が出てくる。
目線をそちらへやると、いつものやつが、山崎の手に収まっていた。


「はい、どうぞ。」


我慢が出来なくて、土方は叫ぼうとした。
お前は、俺の何なのだ。
お前は、何で俺を苦しめるのだ。
お前は、何のためにここに居るのだ。


口を吐いて出そうになった時、回りから爆音が聞こえた。
懐かしい、バズーカの音が響く。
美しいほどに隙が無い少年は、土方と山崎の車の前に立ちふさがった。









「おひさしぶりですねぃ。俺のこと、覚えてやすか?」





その髪の毛を見て、山崎は舌打ちをした。
止めを、刺しておけばよかった。
情けなんか、かけるんじゃなかった。



その呟きに、土方は戦慄する。
あぁ、もう、もう、終わらせなければ。
しかし、そんな土方の思考を読み取ったのか、山崎はもう一度土方を気絶させた。


薄暗くなる視界で、土方は山崎を捕らえる。
先ほどの笑顔で、山崎はうっとりと唱えた。



貴方に、闇は必要ないです。






がしゃん、という音とともに、土方の意識はブラックアウトするのみだった。




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土方の弱さ、山崎の強さがサブタイトルです。
嘘です今思いつきました。
あと2話くらいで終わらせたいです。