殺戮を繰り返して手に入れた世界は、果たして幸せなのだろうか?


胸に詰まったこの思いを、誰か消化してほしい。


彼は幸せに決まっている、っていって、笑い飛ばして。



絡め取られる二人羽織


3日ほど前、土方と山崎は鬼兵隊を壊滅させた英雄として報道された。
もちろん二人は鬼兵隊なんぞ関係なく殺戮を繰り返しているだけなのだが、メディアはそうは思わなかったらしい。
正義の味方、キラ、神様の鉄槌。
イロイロな名前で呼ばれる二人は、まだ車に乗っていた。


「ねぇ。副長。」


この間の武器調達から、運転は全て土方が行うことになった。
警察とのカーチェイスになれば流石に代わるが、ほかは土方でも問題は無い。
そのことでいささか暇になった山崎は、ただひたすらに後部座席で武器の計算を行っている。


「なんだ。」
「あの、鬼兵隊、やった時。」
「あぁ、あれか。」


運転に集中しているのか、土方の回答はいつも素っ気無い。
それを知っている山崎は、その素っ気無い返事にもときめくのだ。
この瞬間、彼の瞳には、自分しか映っていない。


「河上万斉を、殺す時に、聞かれたんです。」
「何を」
「ぬしは、それで幸せなのか、って。」


血みどろの視界で、河上は苦しそうに呻いたのだ。
晋助は、世界を憎んでいた。
だから、壊す理由があった。


お主らは、この世界を愛していたのでござろう?


山崎は、反論できなかった。
愛していたのだ、この、くだらなくも、汚くも、美しい世界を。
壊す理由を聞かれて、山崎は一瞬、迷った。


しかし、本能的に山崎の手は動き、河上に止めを刺していた。
ただ、あれだけ強い男だ、簡単には死ねないだろうと思って踵を返した時。
もう一度、河上は叫んだ。


「主の幸せは、もっと綺麗なところにも有ったはずだ、って。」


それで、なんだかわからなくなっちまいまして。
ふと呟いたのと同時に、土方は路肩に車を止めた。
そして、後部座席へ乗り換えると、山崎をただひたすらに抱きしめた。


「すまねぇ。お前の幸せは、確かに綺麗なところに有ったんだ。」
だけどな
「俺の幸せは、こんな薄暗いところにしかねぇんだ。」


二人で一晩、泣いて泣いて泣き続けて。
次の日、二人でまた人殺しに堕ちる。
山崎はもう迷わないと誓った。


あの人の幸せのためなら、俺はなんでもするさ。



「主の幸せは、もっと綺麗なところに有ったはずだ。
…もちろん、土方の幸せも。
それを全て捻じ曲げたのは、主ではないか!」


なのになぜ、そんな泣きそうな顔をするのだ


聞こえない、見えない、考えないのだ。
死んだ人間は、二度と口を開かない。
このことを、山崎は墓まで持っていく。




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はい、話は動き出します。
こんなん全然動いてねぇなって思っても水菜の中では動きました。
ちなみに、河上は山崎大好きで、できれば綺麗な幸せを味わってほしかったと思います。


ただ、幸せは人それぞれってお話。


土方の幸せは山崎の幸せじゃないんだよってことが言いたかったんですけど。
全然あらわせなかったって言うか全く解らないというか…
万事屋編でうまく説明できればいいなぁ。








水菜