目印
うわぁぁぁ、と太い声が轟く。
その声を出しているものの血飛沫を浴びつつ、少年は突っ走っていた。
「どきなせぇ!」
その目は、普段ふざけて自分の上司を狙う目とは全く違っていた。
誰かを必死に求めているような、そんな目。
「総悟!」
周りにどれだけ呼ばれても、振り返りすらしなかった。
ただただ、猪突猛進に自分の探し物を求める。
…まるで、虎のようですね。
探し物の青年が言っていたことを思い出す。
綺麗なハニーブラウンですもん。
こんな色の髪の毛、少年は好きではなかったのだが。
この髪の色があれば、沖田さんを見失いませんね。
笑顔で言った、青年が、いたから。
愛しい彼が、言ってくれたから。
少し自分自身でも好きになれた髪の毛を、紅く染めながら少年は叫ぶ。
「山崎!」
ふらり、と影のような黒が目の前に現れた。
少しだけ緑がかったそれは、愛しの彼のもの。
「沖田さん…。」
真っ黒な髪の毛を、とても嫌がっていた彼は、ふんわり笑った。
「やっぱり、その色は見つけやすくていいや。」
ふわっと、目の前に倒れこんだ漆黒は、
彼の職業と、消えるであろう彼の命をあらわしていた。
「お前の髪の毛も…赤くて綺麗でぃ…。」
漆黒を抱きかかえると、少年はまた走り出した。
彼が言った通り、まるで虎のようなハニーブラウンをひらめかせながら。
あぁ、綺麗過ぎて息が止まりそう。