毛糸
おもちゃ会社の販売政策なんて知っている。
だけど、この日とチョコレート会社の陰謀だけは。
引っかかってもいいかなと想っている自分がいる。
真っ赤な毛糸で遊んでいる猫をどけると、その猫は不機嫌に鳴いた。
しかし、猫に解っていただくしかない。
なぜならこれは、あのおもちゃ会社の陰謀の日にあの人に渡す物になるのだ。
渡す前から傷つけられたのではたまらない。
プレゼントを考えるだけで、三日三晩寝ていない。
いや、眠れなかった。
気難しいあの人だから、何に対して喜ぶか全く解らない。
もしかしたら、何をあげても喜ばないかもしれない。
そんな不安で、この毛糸を買ってからも寝れていないのだ。
…じつは、何を編むかすら決まっていない。
「ほら、先生に遊んでもらって。」
猫を伊東参謀の部屋の方向へ放す。
片手しかない先生には申し訳ないが、今はこっちの方が大事である。
手袋にしようか、はたまたマフラーがいいのか。
もしかして、セーターが欲しいかもしれない。
「山崎をこれでくるんでプレゼントすればいいと想いまさぁ。」
「…それが一番効果的かもしれませんね…沖田隊長!?!?」
いきなり後ろからかかった声にびっくりすると、沖田はいきなり笑い出した。
あまりにも面白そうに笑うので、少し恥ずかしい気持ちになる。
彼は、いつからここに居たんだろうか。
「猫が出てきたんもんで、山崎が居るんだと思いまして。」
声をかけてくれればよかったのに、なんて考えると、沖田は悩みの種、毛糸を手に取った。
そして、何を考えたのか、それをいきなり解きだしたのだ。
そして短く切ると、あやとりを始めてしまった。
「お、沖田さん?」
黙ってもくもくとあやとりをする沖田は、全く山崎のことを見ない。
「ね、ねぇ。」
集中してしまった沖田には、もう何を言っても通じないのは真選組の常識になっている。
毛糸を返してもらうのを諦めると、そのまま山崎は縁側に寝転がる。
とにかく、飽きるのを待つしかない。
冬の空は、まるで何も無いのかと勘違いするほど晴れていた。
今日は珍しく、宇宙船も飛んでいない。
少し寒いが、とても穏やかな休日である。
あやとりにやっと飽きたのか、沖田も山崎の居る縁側に座る。
「お前のあげるものなら、あいつは何でも喜びますぜ。」
だから、あげたいものをあげなせぇ。
それだけいうと、ぱたぱたとどこかへ走っていってしまった。
しばらくまたぼーっとすると、山崎は編み棒と毛糸を持って部屋に座り込んだ。
その年のクリスマス、長いマフラーを二人でつけているカップルが歌舞伎町を歩いていた。
幸せそうに歩く姿は、とても微笑ましいもので。
きっと、その小指にある赤い糸が切れることなど無いと誰もに思わせるものだった。
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土方さん全然出てこないけど、土山だと言い張る。
これって、クリスマスの日にアップされるのかしら?
イブぐらいにアップされるといい。
このお題もそろそろ折り返しですねぇ。
次は何をやろうかしら。
2008@11@25