以心伝心





 口で言ってくれないと分からない。
 と、冷たく言い放たれたことが、山崎にはあった。
 もともと喋るのがあまり得意ではない山崎の恋人の、一番最初のわがままだった。


 「っぁ…。」


 しかし、この自分が喋れないような状況になった時に、土方はどうやって山崎の言いたいことを分かるつもりなのだろうか。
 もう、吐き出す血がなくなるほど出血し、周りの砂利は目も当てられなくなっている。
 一回は生き延びた山崎ではあるが、今回はもう救い様が無いのは一目瞭然だ。

 それは、いま、誰がこの状態を見ても、きっと助けを呼ばない状況が物語っている。
 それほどまでに、山崎は弱りきっていた。


 「ふく…う…あ…」


 もう、人間のものとしての役割を果たさなくなった口を動かして、必死に思い人を呼んでいる。
 何が彼をそこまでさせるのか、彼にもわからなかった。
 だけど、無償に愛しい人の体温が恋しくなった。
 だから、ただひたすらに、呼ぶのだ。


 「ひじか…さ…た…」


 助けて欲しいわけではない。
 それだけは、山崎のぼんやりとした意識の中で唯一ハッキリしていた。


 助けにきて欲しいわけではないのだ。
 副長として、部下の最後を見届けないで。
 恋人として、愛していたものの最後を悲しんで欲しいのだ。
 その表情を見れば、きっと天国にいける気がしたのだ。



 ただ、それだけだった。



 山崎は、ずるずると動かない体を無理やり動かして前進する。
 逢いたい、会いたい、合いたい。
 この感情が何かすらわからなくなっても、体は動きつづける。


 まるで、それは理性をなくしたゾンビのように。


 じゃり、と小石が音を立てた。
 目の前に、見慣れた靴がある。
 山崎は安堵に、体の力を抜いた。


 すると、その靴を履いた人間は山崎の体を抱きしめた。
 その慣れ親しんだ暖かい体温に、とてつもない安堵感を覚える。

 あぁ、この腕の中に返ってこられた。


 胸ポケットから手紙を取り出し、次のテロの予定を知らせる。
 土方はそれを見ると、自分のポケットにしまった。
 山崎が最後の力を振り絞って、口を開く。



 「ほら、あなたは、いわなくても、きてくれた。」



 糸が切れたように倒れこむ愛しい人に口付けを落とし、鬼は立ち上がった。
 取り戻すことは出来ないけど、きっと山崎はあいつらを成敗することを望んでいる。



 そのまま走り出す。


 覚悟は出来ていたから、山崎が死んだことに対して土方はそんなに動揺しなかった。
 逆に、安心したくらいだ。
 もう、これで、愛しい人は人を殺す苦しみを味会わなくてすむのだから。


 そのまま、刀を抜く。
 鬼は、やはり鬼だった。

 土方は、山崎が地獄で待っていればいいと思っている。
 山崎は、いつまでも地獄で土方のことを待っている。
 きっと、こんな二人は



 以心伝心。



 言わなくても分かるんじゃない。
 みれば分かるだけ、
 顔が物語ってたもの。







 『あなたのことを愛してました。』










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 あとがきじゃなくて懺悔。
 懺悔ですよ。
 以心伝心の前に支離滅裂だったし。
 ひでぇ。
 どうしよう、書き直そうかしら。
 …そんな時間ねえぇぇぇぇ!