河上が手を重ねれば、その青年は恥ずかしそうに俯いた。
いつもなら「死んでくれないか変態」とでも言わんばかりの勢いで殴られるのに(実際に言われたこともある)、今日に限って青年は嫌に素直だった。
それはまるで、自分の命日が明日だと知っているような態度だったのを河上は良く覚えている。
no subject
ずっと隣に居たわけではないし、決して背中を預けあって戦う仲間でもなかった。
しかし、この二人が一緒に居た時間はあまりにも濃くて。
河上はこれからのことを考えるとなぜか震えがとまらなくなっていた。
「明日でござるな。」
「あぁ。」
まるで意識がどこかにとんでしまったかのように青年は頷いた。
いつもなら「だからどうした変態」といわんばかりの勢いで蹴られるのに(実際言われたこともある)、やはり今日の青年はおかしかった。
肩を河上にもたれかけ、髪の毛を素直にいじられている姿は、彼に心酔している青年が見たら卒倒するだろう。
それほどまでに伊東は、誰かに頼ることを知らなかった。
誰かを利用することと頼ることはイコールではない。
利用すると言うのは、相手の意思を全く考えずに行動することを言う。
あえて言うなら、ペットとご主人様の関係だ。
しかし、頼ることは頼られる側の意思があってこそのものだ。
いつも伊東に付きまとっている篠原と言う青年は、それを理解しつつも伊東に利用されることを止めなかった。
その結果がこれなのを、篠原は知っているのだろうか。
それとも、それを黙認しているのだろうか。
伊東を神と崇めるからこそ、そこを話せないのか。
河上が考え込んでいると、目の前には不安そうに揺れる瞳があった。
欲に濡れるそれは、きっと篠原も知らないだろう。