人外なるに問う
生れた時から、それは沖田の側に居た。
雨の日も風の日も、嵐の日も。
ただそれは沖田の側に居て、彼の面倒を見続けるだけだ。
身体の弱い姉をもつ沖田にとって、それだけが心の支えだった。
幼心に、それを徒に傷つけたこともある。
だけどそれは、顔色一つ変えずに沖田の側に居た。
そして沖田は、今日20歳を迎える。
「おい、総悟、本当にいいのか?」
「しつこいですぜ土方さん。俺にはもう母親代わりはいらないんでさぁ。」
「だがなぁ…」
あんたが側に置いておきたいだけでしょうが。
沖田は言い捨てると、それが居る副長室へ足を運ぶ。
それを、削除するために。
それは、覚悟したかのように座って待っていた。
「お帰りなさい、沖田さん。」
それはふわりと笑うと沖田の手を取った。
その手を振り払うと、沖田は忌々しげに呟く。
だけどそれはその言葉を拾うことすらせずに、ただただ笑うだけだった。
自分の最後を知っているのだろうが、それの笑顔はプログラミング通りで。
「沖田さん、今日のご飯は何にしますか?」
それすら無視をし、沖田はそれをひっぱたいた。
俺はもう子供じゃないんでさぁ。
本来のそれなら拾い上げられるような音量のそれも、まったく拾うことをしない。
ただ、プログラミング通り笑うだけだ。
本当はもっといっぱいのプログラムがあったはずだ。
それらはほとんど意味を成さずに、それは笑っていた。
沖田はそれにもイライラし、今日こそはとヘアピンを取り出す。
首の後ろの、小さいボタンをそれで押せば終わりだ。
それの電源は簡単に落ちて、苦しみから解放される。
だけど、それが笑うから、沖田はその一押しができなかった。
しかし、今日こそは。
子供から、卒業しなければ。
この、自分の主人の誕生日すら思い出せないポンコツを、壊さなければ。
ごくっ、という音が響く。
流石にその音は拾ったのか、それは少しだけ不安そうな表情をした後に、また笑った。
プログラムどおり、笑った。
ごめん。
と、もうそれが拾うことも無い音を出して。
山崎退は、電源を落された。
一度電源を落されたアンドロイドは、再び電源を入れても記憶は戻らない。
人間とそれは構造が一緒で、そのことを沖田は恨むばかりで。
パソコンのように電源を落して、全てをなかったことにしてしまいたかった。
ウイルスが居ても、山崎は山崎だったのに。
沖田はそれを理解できずに、ただ悲しみにくれるだけである。
頬を伝う雫とともに、それに言葉を注ぐ。
人外なるひとに問う。
貴方は、こんな俺のものでも、幸せでしたか?
深刻なエラーが発生しました。
深刻なエラーが発…
ありがとう、さようなら。
==========
悲し悲し様に提出させて頂きました。
…悲しいでしょうか。
凄い異色ですよねきっと。
マイナーCPな上に、アンドロイドとか凝りすぎてていやですね。
あ、ちなみにとある歌を参考にさせていただいています。
解りにくいです、すみません。
こんなすばらしい企画に参加できて幸せです。
銀羽の罠
水菜