愛してる、うそじゃないんだ。
GUILTY
誰が見ても、幸せな二人だろう。
黒髪の彼女は、ふわり、と彼に寄りかかっている。
彼氏のほうは、その軽すぎる彼女を、飛ばないようにとしっかり抱きとめている。
車内には、嫌にならない程度の甘さが漂う。
その、二人だけを仲間はずれにして。
「退殿、さがるどの、」
名前を優しく呼ばれて、山崎は眠りの淵から意識を戻す。
電車の中の電光掲示板には、次の駅の名前が出ている。
「ありがとう、起こしてくれて。」
別に、二人ともここで降りるわけではない。
ただ、ここは屯所の最寄り駅だから。
山崎もばれる様な変装をしているわけじゃない。
だが、やはり、念には念を。
もし、同じ監察の同僚が乗ってきたら。
もし、真選組に河上だとばれたら。
もし、もし、土方副長が乗ってきたら。
最悪の状況だけは避けなければならない。
まだ、まだ一緒に居たいのだ。
ふ、と身体を起こし、携帯をいじる。
河上も、普段の目立つ格好ではなく、山崎と出かけるときは和服を着てくる。
今この状況で誰にあっても、大丈夫であろう。
ばれることは、無いのだろう。
しかし、河上はこの関係が嫌だった。
恋人であるが、恋人ではない。
山崎には、もう一人恋人が居るのだ。
お互いに一番だよ、愛してるよ、といっても。
結局最終的に、山崎の一番は土方なのだ。
いくら万斉のためだよ、といわれても、
結局は土方と別れたくないから、こんな茶番を続けるのだろう。
屯所には近づかない、最寄り駅では他人のフリ、次の約束はしない。
そんな理不尽なルールに、河上はなれ始めている。
そんな自分が嫌で、だけど山崎が大事で、河上は二つに千切れそうなのだ。
人が降りる。
人が乗る。
ある程度電車が混みだして、目の前に人が立った。
「山崎、」
今一番聞きたくない声に、河上はため息をこらえるのに必死だった。
隣の山崎はというと、まるで子犬のように目を輝かせている。
自分には向けられないその瞳に、嫉妬を感じているけれど、今は。
他人なんだ、と自分を押さえ込む。
「おまえ何してんだ。」
「あぁ、ちょっと女装の練習を。でも、副長にばれるようじゃダメですね。」
「…あぁ、そうだな。もっと練習しろよ。」
楽しそうに、会話が弾む。
河上は寝たフリをしながらただ会話を聞いている。
あぁ、苦しい。
「副長は?」
「あぁ、見回りに行こうとしたら、車が一台もなくてな…」
「あはは、多分沖田さんでしょうね。」
我慢が、出来なくなる。
「山崎、」
「副長、」
「また後でな。」
とうとう、目の前の影がいなくなる。
後でな、と言ったので、きっと後で二人はどこかに行くのだろう。
「…すまぬな、拙者のために時間を裂かせて。」
もう一度河上に寄りかかった山崎に、河上は囁いた。
山崎はピクリと動いたが、それを聴かなかったことにしたのかそれから動かない。
出会う順番が、逆だったら良かったのか。
甘美な痛みしか生まないこの関係は、もう少しだけ甘酸っぱいものになっていたのか。
罪悪感だけを積みながら、電車はただ走るのだ。
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久しぶりに万山です。
万山にしては珍しい物を書きました。
私の万山って、基本甘いんですけどねww
浮気相手だと思い込んでいる万斉と、
別れさせられることに敏感な山崎でした。
某曲を聴きながら書いた記憶しかないww