幼い頃のメロディが
今もまだ
忘れられぬ
エトランジェ
河上が空を見上げれば、そこには紫色しかなかった。
ふ、と笑いつつ自分にかかった着物をどければ、総督は河上の上着を羽織って外を見ていた。
女がそんなことをしようものなら、すぐにでも自分の上着を奪い返し、その場を足早に去ってしまうであろう河上が。
おとなしくその光景を眺めていたお話。
くるりと振り向いた総督は、にたりと笑った。
その表情にイラリとしつつ、河上も笑う。
その光景は、いささか寒い物であった。
「なぜ、このようなことを?」
河上の口から出た言葉は、本人が驚くほどに優しかった。
普段一夜をともにすごす女には向けたことの無い、穏やかな表情。
そんな女たちが嫉妬で狂うほどに、河上は総督に優しかった。
「なんでだとおもう?」
それに対して総督は、人を小馬鹿にしたような対応を取っている。
その姿にはとてつもない色香があり、先ほど行為に及んだばかりの河上を興奮させるには十分すぎるほどだ。
しかし、河上も子供ではないのでそんなにがっつけないのが事実。
「…質問を質問で返すとは、ぬしも意地悪でござるな。」
くすくすと笑いつつ、自分の感情をおしころす河上は、思ったより自分が焦っていることにきがついていない。
総督は紫煙を吐き出すと、もう一度月を仰ぎ見ている。
それを見てまた湧き出す感情に、河上は少し戸惑っていた。
「なぁ、答えてみろよ。俺は何でこんなことをしたんだと思う?」
あの自分の下で喘いでいた可愛い総督殿はどこに消えてしまったのだろうかと、河上は本気で悩みだしていた。
しかし、この総督からの質問も答えなければならない。
自分から、わざわざ誘った理由…
「寂しかった、から?」
『高杉晋助』は目を細め、満足そうにまた紫煙を吹いた。
ばかかおめぇは、と言ってもう一度河上の腕に舞い戻る蝶。
舞う力を失った代償に、彼は新しい巣を手に入れたのだ。
==========
はっぴゃくいちってこういうこというんですね。