黒執事パロ。
だけど銀魂世界。




「ほら、副長、朝ですよ。」


呼びかけても起き上がらない土方に、山崎は冷たい微笑を浮かべる。
人間の物ではないそれは、まるで悪魔のようで。
その微笑を絶やさずに、山崎は今一度土方を呼ぶ。


「副長、起きてください。」


呼びかけても起き上がらない土方に、山崎は冷たい微笑を浮かべた。
ただ、先ほどと一寸も変わらない笑みを、浮かべている。
気持ち悪いほどに、それは、微笑んでいた。


「しょうがないですね。」


かち、と剣を鳴らしてやると、土方は飛び起きる。
それも、山崎に自分の愛刀を突きつけるというオプション付きで。
 

「おはようございます。副長、朝ご飯は何にしますか?」


全く動じずに、山崎はさらっと言った。
こんなのは彼にとって日常茶飯事であり、そして、この男の剣で山崎は死なない。
土方に、山崎は殺せない。


「マヨご飯。」
「解りました。」


刀を突きつけられたまま、朝の会話は終わる。
それが、土方十四郎の毎朝の日課だった。










真選組では、山崎は出身不明となっている。


ある日、先代の監察…といっても今現在と比べ物にならないほど弱かった…が全滅した日。
土方が拾ってきたのだ。


今日からこいつが、真選組の監察筆頭だ。 


土方は、近藤にそれしか語らなかった。
近藤の知る山崎の情報は、これ以外に、ミントンが好きなことと医術を少しだけかじったことがあるということだけだった。


普通なら断りたいところだが、なにせ近藤と言う男は底がないほどに土方…いや、他人を信用する。
まぁ、トシが拾ってきたのなら。
局長のその一言で、山崎は真選組の一員になった。


それから山崎が隊員と仲良くなるのに時間はかからなかった。
ギャグセンスもある。
だけど、地味で目立たなく。
しかし、とても器用な男。


だが、真選組の中に山崎の深いところを知るものは一人も居なかった。
誕生日なんてものはないといわれたので、土方が拾ってきた日になり。
年齢なんて知らないといわれたので、妥当なところで土方の2つ下ということになった。




しかし、こんな山崎でも、隊員とは仲良くやっている。





「副長、ご飯です。」

 
山崎が副長室に入ると、そこには先客が居た。
色素の薄い髪。
自分より少しだけ高い背丈。
まだ子供のような、話し方。


「沖田さん、いらっしゃったんですか。」


先客は振り返ると、おう、と返事を返した。


「じゃあ、これは頂いていきますぜ。」


山崎と土方にそれだけ言うと、沖田はさっさと副長室を去っていった。
大体この話の脈略だと、沖田は土方の大事な物を奪っていったのだろう。
いくら人間の感情が理解できない山崎でも、これくらいはわかった。


「何を取られたんですか。」
「なんでもない。」
「取り返しましょうか。」
「いい。」


それだけで、意思の疎通は終わる。
マヨ飯だけ机の上に置くと、山崎は立ち上がった。
そして、何かを思い立ったように立ち止まる。



振り返って、言う。 


「渡したい物があります、食べ終わったら呼んで下さい。」


足音など一つも立てずに、まるでそこには元から何も存在しなかったかのごとく、山崎は部屋から居なくなった。










土方だけは、この男の正体を知っている。





いつもと同じ味のマヨご飯をかきこんでると、土方はふと昔を思い出す。
なんでも順応していった山崎でも、このマヨご飯だけは最初嫌そうな顔をした。


山崎はしばらく、土方を人間扱いしなかった。
あんなのを食べるのは、俺の仲間にも居ませんよ。
そうやって完璧に笑う山崎に、違和感を覚えたのもその日から。


まぁ、きっと彼らはああいう笑みしか浮かべられないんだろう。
 

思考にふけっていると、いつのまにか目の前のマヨ飯は空になっていた。
ずいぶんの間自分は集中していたらしい。
時計を見ると、食べ始めてから30分。
そろそろ、山崎を呼ばなければならない。


そこで土方はようやく思い出した。
そういえば、渡したい物があると言っていた。
なんであるかはさっぱり解らない。


しかし、あの山崎が渡したい物だ。
きっと大切な物に違いない。
勝手に自己完結すると、土方は食器を下げさせるために山崎を呼び出した。







山崎が部屋に入ると、その手には何かが握られていた。
それはとても小さく、遠目からでは何を持っているか解らないほどだ。


「皿を下げろ。あと、渡したい物があるとか言ってたが…。」


土方が食後の煙草を吹かしながら訪ねると、あぁ、と間抜けな声を出して山崎は手の平からボタンを出した。
それを見ると、土方は、絶句した。
その手に握られているボタンには、見覚えがある。


いや、見覚えがあるどころか、朝、土方はそれを見ているのだ。
沖田総悟に、もっていかれる瞬間を。


「どうした、その、カフスボタンは。」


隊長格にしか配られない制服のカフスボタンなんか、山崎が持っているわけがないのだ。
他の隊長から貰ってきたにしては、それは、あまりにも見覚えがあった。


朝、沖田が、この部屋に来た時。
いつものように暴れたら、沖田の制服のカフスボタンが取れてしまった。
それに文句をつけた沖田が、土方のカフスボタンを引きちぎっていったのだ。


山崎は、それを取り戻してきたのだ。


しかし、相手はあの沖田だ。
いくら山崎とは言え、あっさり返してもらえるとは到底思えない。


「おまえ、どうしたんだ、それ。」


あまりの驚きに土方がどもると、山崎は笑った。
貼り付けた笑顔で、笑ったのだ。



 





「あくまで、監察ですから。」













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はい、やっちまいました。
わかる人にはわかりますね、このネタ。
つか、続きを書くか書かないかで迷ってます。

インフルエンザ中に書いた小説なんかそんなもんです。



水菜