ロストマイラバー 銀山


だんだんと登っていく坂道に、山崎はため息をついた。
隣にいる坂田はこちらを見もせず、運転に集中している。
真っ暗な景色に、あの、思いでの人を思い出す。
思い返して見れば、山崎にはあの人に関して、暗い記憶しか残っていなかった。
楽しい記憶もあったはずなのに、なんて思うが、やはり殴られて、蹴られて、挙句女の子と浮気された記憶しか残っていない。
そのほとんどを、山崎は許してきた。
もともとつりあう二人ではない。
自分一人ではあの人をとどめておくことすら出来ない、と。
それに、初めて浮気されたとき、逆にお前が悪いと山崎はボコボコにされてしまったのだ。


そこで、山崎は悟った。


自分は恋人なんかじゃなくて、ただのペット…いや、おもちゃなのだ。
そう思ったら、あのひと…土方の事全てが許せるようになった。
そんな錯覚を持った山崎にとって、今までの人生、悔いなどは無いのだ。


ただ、ただ、もう少しだけ愛してほしかったかなぁなんて山崎は思案していた。
それをわがままだと思い込んでいる山崎は、あぁ、俺はあの人を不幸にしかしていないのだろう、とも思った。
俺なんか男だし、やわらかく無いし、可愛くないし。


こんなこと、しようとしてるし。


土方のことを思いすぎている山崎は、なぜかそんな答えにたどり着く。
ふともう一度山崎が隣を見れば、坂田も山崎の方を向いていた。


「後悔、してたりする?」
「全然。そんなこと無いですよ。」