なんでもかんでも背中で語るな



布団の中にもぐりこむと、お日様のにおいがする。
今日は非番だったため、山崎は布団を干したのだ。
その太陽の暖かさを少しだけ残した布団に、山崎はすがりつく。


今日は、四十九日だ。
幽霊が嫌いだったあの人も、もう幽霊と化してしまうのだろう。
山崎はそんなやりきれない気持ちを抱えて、夢へと堕ちていく。


本当は、出なきゃいけない会議もあるし、法事も出席しなければならない。
しかし同僚達は気を利かせたのか、山崎を一日休みにした。
仕事をやっていた方が気がまぎれるし、といった山崎も、後輩や同僚達の熱意に負けて今日はゆっくりしたのだ。


もともと、法事は出たくなかった。
死んだことを認めたくなかった。
自分が守れなかったことを思い出したくなかった。


肺炎、という真選組副長にしてはあっけない死だった。
切られたのならまだ浮かばれただろうに。
密偵から帰ってきた山崎は、昨日このことを知ったばかりなのだ。


「寝なきゃ。」


ぽそりと響いた山崎の声は、天井に反射して、響いた。
その天井を見上げると、何か影がある。
ふ、と障子をみると、あのひとが、立っている。


「ふ、くちょう?」


背中を向けたままたたずんでいるそれは、山崎に返事をよこさない。
起き上がろうとしても、指一本すら動かない。
これが、いわゆる金縛りというやつなのか。


思ったより冷静な山崎は、もう一度その影に声をかける。
なるべく優しく。
泣かないように。


「入ってきたらいかがですか?」


ひゅう、と風の音がする。
少しだけ隙間の開いた障子から、あの香りがする。
タバコの、苦いあのカオリが。


泣くな、泣くな。
山崎は自分に言い聞かせる。
そして、何も言わない背中に向って声を投げ続ける。


「喋ったらどうですか。」


だけど、影は答えない。
ただ、その背中を少しだけ動かすのだ。
かたかたと障子が返事をする。


「ねぇ土方さん。おれ、あんたの声も思い出せないんだ。」
「全部背中で語るもんだから、山崎、って一言で済ませるもんだから、」
「俺、あんたの山崎、って俺を呼ぶ声しか思い出せないんです。」


だから、思い出させてくださいよ。


涙声が響く。
いつもなら、泣くなよ、と低い声も響くはずなのに。
部屋にはずっと、男にしては高い泣き声が響くだけなのだ。


「…ごめんなさい、土方さん、ごめんなさい…俺、あんたを守れなかった。」
ひっく、としゃくりあげる音とともに、切なく響くそれに。
風は、いつまでも待っている、だから俺を忘れるな、と答えた。



















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不器用な瞳様)に提出しますた。
遅くなってホントすみません…

ほんと土下座して謝ります。

いやぁ、誕生日祝いだったはずなんですけど。
死にましたね。副長。
あ、もしかして、

もう一度土下座ルートですかね…?

なんか、副長と山崎って阿吽の呼吸なきがします。
山崎!
はいよっ!
で全てが通じる感じですよね。

そんな感じをイメージさせていただきました。


2009-11-22
銀羽の罠神崎水菜