冷夏


頬にある痛みは、目の前の恋人からの制裁だった。
5分ほど言い合って、殴られて、それでオシマイ。
3年も一緒に居た時間は、あっという間に終わってしまう。


もともと彼が自分に好きだといったのだし、付き合い始める直前に宣言したはずだ。
自分は俗に言う「節操なし」だから、浮気はなおらないよ?でも大丈夫?
彼はうなずいたはずだったのだ。


「他の人間なんか見えないほどに、山崎さんを俺に夢中にさせて見せます。」


誠実な彼と、浮気性な俺。
周りは1ヶ月持たないとか失礼なことを言っていたけど、そんなことは起きなかったのだ。
彼は俺を壊れ物のように大事にしてくれたし、俺も俺で彼のことは大好きだった。


そして、彼のあの言葉は、現実になった。
彼が有言実行なのは知っていたけど、ここまでだとは思わなかった。
春に告白され、その夏、蝉が鳴く頃には、俺は他の男「全て」と手を切っていたのだから。


1年目の夏は、2人で祭りに行った。
初々しい彼が可愛くて、意地悪で手を握ってみた。
最初は珍しく感情をあらわにし、顔を真っ赤に染めてみた彼だけど、仕返しか何か、ぎゅっと俺の手を強く握り返してきた。
そのまま意地の張り合いになり、顔を真っ赤にしたまま2人で屯所に帰ったのを見て、沖田さんに散々からかわれることになる。


2年目の夏は、海まで遊びに行った。
監察筆頭の俺と、その補佐の彼にしては珍しく、2日間も休みが被ったのだ。
あとあと話を聞くと、少しだけ副長を脅したらしい。
あんな子供っぽい篠原を見たのは初めてだ、と副長も苦笑するほどのものだったらしい。


そんな彼の並々ならぬ努力のおかげで行けた海は最高だった。
一日中遊んで、遊んで。
真選組のことも、副長のことも、参謀のことも全部忘れて2人ではしゃぎ回った。


だけど、3年目の春、俺の病気が再発した。
寂しくて寂しくてしょうがないのだ。
1人では夜を過ごせないほどに。


そこからはなし崩し。
昔の男全てと連絡を取り直し、毎晩屯所に帰らない生活。
彼と顔をあわせると気まずいし、という言い訳の元、俺は遊びまわってしまった。


今日、それがばれたのだ。
夏の癖に全く暑くもなんとも無い中庭で、篠原はこの夏のように淡々と喋っていた。
実際、半分くらい聞いていなかったけど、これだけは聞いていた。


「結局貴方に俺は必要ないんでしょうね。」


そんなことないよ。
いえなかった自分を恨んでも遅かった。
仕事なら何でも嘘がつける自分が、なぜか彼の前では嘘も吐けないのだ。


「初めからそうだったじゃないか。俺は言ったよ?浮気は治らないって。」


ばちん、という音とともに篠原は自室に篭ってしまった。
障子が閉まった瞬間に、太陽が顔を出す。
あぁ、もっと早く出ていれば、その暑さに脳みそがやられて、彼に嘘がつけたかもしれない。


(もしかしたら、愛してる、って本音が言えたかもしれない)


1年待っていてほしい。
もし、来年の夏が暑かったら。
熱中症にかかって、意識が遠のいて。


愛してる、って呟くから。







(素直になんかなれないよ。)
(嘘はいくらでも吐くけど、恥ずかしくて本音は言えないんだ。)



(あぁ、なんて俺は不器用なんだろう!!)






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どうも、水菜です。
退ノ夏様に提出させていただきました。
夏…夏…夏?
みたいな作品になっちゃいましたけど、大丈夫でしょうか?


なんか2009年は冷夏らしいので…
雨ざーざー降ってますし。
こんな異常気象なので、病んでても良いかなって(いいわけあるか


とりあえずお米とおいしい胡瓜とトマトが取れればいいなと思います。



銀羽の罠
神崎水菜