隣
僕はそれが好きだった。
荷物を整理していると、押入からアルバムが出てきた。
なつかしいな、なんて想いながらそれをぺらぺらとめくる。
今日中に引き上げなければいけない部屋なのだが、少しくらいの休息があっても罰は当たらないだろう。
「近藤さんに…土方もいる。」
もう30年も前の写真で、自分は満面の笑みを浮かべている。
何も知らないで。
彼らの苦しみも。
彼らの悩みも。
あいつの痛みも。
私の、未来も。
今思い返せば、あの時が一番楽しかった。
近藤さんは元気で、土方を殺そうとして。
原田の髪の毛を勝手に再生して、伊藤と剣を交えて。
旦那と甘味を食べて、神楽と喧嘩して。
ただ、いくらアルバムをめくっても出てこない顔があった。
もう、名前も思い出せなくなっているような、地味な奴だったと思う。
ミントンとカバディが好きで、どこか抜けてて。
少し、好きだった記憶だけがある。
なんで、覚えていないのだろうか。
アルバムを閉じると、何故か一枚だけ写真が落っこちてきた。
それを拾い上げれば、あの夏の日がふと頭をよぎった。
「おい山崎!!こっちでさぁ!」
はしゃぐ俺にむかって、山崎が走りこんできた。
「待ってください!もう、はしゃぎすぎですよ…。」
もともと、監察の山崎は外に出してはいけない。
顔を覚えられると、変装しても聞き込み辛くなるらしい。
あとは、多分、土方のあんにゃろーの独占欲だとは思うが。
「はぁ…ばれたら俺、マジで土方さんに殺されちゃいますよ…。」
「安心しろ、その前に俺が殺してやりまさぁ。」
物騒なこと言わんでください、という言葉とともに、山崎が俺に向かって海水をかけてきた。
おかげで、俺は頭からつま先までびっしょりになる。
少し身震いをすれば、あはは、いぬみたいだ。といって笑うノー天気がいた。
「山崎、お前俺様に水をかけておいてそのまま帰れると思ってんじゃねぇよなぁ?」
げ、という顔をした山崎を持ち上げ、そのまま海へと放り込む。
さすがに空中では抵抗できないらしい、そのまま誰かさんの狗は真っ青な海へと落ちていった。
自分で言うのもなんだが、結構腕っ節は強い。
深みまで飛ばされた山崎は、ずいぶんと遠くにいた。
「……ですよー。これ、昨日……ばっかりなのに…沖田さん!聞いてます!!?」
遠くにいすぎて聞えない声に適当に相槌を打ちながら、砂浜に穴を掘る。
山崎が、ちょうど落ちるくらいの穴を。
「なにしてんですか?」
「いや、山崎のために落とし穴を掘ってるんでさぁ。」
はぁというため息は、小波に消えてしまう。
何にも反応しなくなった山崎を不審に思い、そちらを向いた。
すると、そいつはただ、ただ一点を見つめていた。
何もみていないようで、何かを見ている瞳で、ただ、一点を。
そのまま消えてしまいそうな人間にかける言葉なんて、不器用な俺は一個も持ち合わせていなかった。
「なんででしょうか?」
いきなり喋りだしたその声を、静かに聞きつづけてみようと思って。
「…土方さんのほうが、ずっと大人で。」
比べないでよ、俺は俺なんだから。
「副長だし、考え方も大人だし。」
そんなの、将来俺だってそうなってるかもしれないだろ。
「なのに、なのに。」
あなたの隣に居たいんです。
抱きしめた黒い誰かの狗は、とうとう泣き出した。
それは、俺の恋人になる。
そのあと、記念だからといってせがんだものがこの写真だった。
監察は生きていた証拠すら残してはいけないといって嫌がったのに、無理やり撮影。
その顔は硬かったけど、やはり楽しそうだ。
「私に、あの頃を懐かしむ資格は無い、な。」
そのままそれをもとにもどし、ダンボールの底にしまいこむ。
局長、準備は整いましたか?
障子の向こうから若い声がする。
もう、私より古い人間などこの真選組には存在しない。
あるく縁側はだいぶ朽ち果て、倉庫など見る目も当てられない。
そんな屯所の奥へ行くと、ずらっと石が並ぶ一角がある。
その一番奥の、奥の、奥にいる初代局長、二代目局長、そして、二代目局長の隣に置いてある小さな石に花を手向けた。
今から、私もそこに行きますから。
結局ダメだったじゃねぇかって笑い飛ばしてください。
きっと、真選組が壊滅しても、無くなっても。
あなたの隣にはあいつがいるように、しっかりと守ります。
それが、私のできる最大の罪滅ぼし。
「…真選組局長、沖田総悟殿とお見受けする。」
「はい。」
「政府の命により、お命頂戴いたす。神妙になされよ。」
「…かかってきなせぇ、私は、いや、俺は、真選組一番隊隊長、沖田総悟でさぁ!」
さぁ、最後の戦い。
君は、君の守り抜いた男の隣でこの茶番を、見ているの?
忘れたんじゃない
忘れるしか生きる方法が無かった。
ただ、ずっと、好きだった。
寝顔がすこし苦しそうな顔をしたので、山崎は膝枕を少しずらしてみた。
すると沖田の顔がすこし安らかになったのでその場で留まる。
この綺麗すぎる景色を、俺らは何回見られるのだろうか?
そんな愚問を考えながら山崎は、色素の薄い髪の毛を飽きずに撫でつづけていた。
ずっと、ずっと。
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ははははは、意味不にもほどがある。
いや、ミントンのし過ぎでいま腕が筋肉痛なんですよ。
いてぇいてぇ。
ミントンだけは人並みに出来ます。
いや。
聞いてないからね。
とりあえず、実史だと処分されちゃうんで、彼ら。
近藤さんを私は殺せない→土方さんは殺しすぎちゃうからだめだ→え、退は局長にならないよ。
→よし。そごたんいけぇぇぇ!
はい、壊滅的ですね。
よし、寝よう、そうしよう。