血溜り
真っ赤な床の上を、土方は歩いてた。
その真っ赤なものの大半は土方の攻撃によって作られたものに他ならない。
「また酷くやりやしたねぇ。」
「お前の担当したところとあまり変わらないだろう?」
まちげぇねぇ。
そういって笑う部下に頭を痛めながら、土方は歩みを進める。
このむせ返るようなニオイに、土方はいつまでたっても慣れることは出来ない。
十分ほど前まで、転がっているものや、滴っているものは人間だったのだ。
そいつらの過去などは考えなくなったが、やはり気持ちのいいものではないと思うからだった。
そんな考えに浸っていると、いつも自分の隣にいるはずの存在がいないことに気が付く。
「…おい、山崎はどうした。」
嫌な予感がした。
もともと、今回の捕り物は山崎の潜入調査がばれそうになったからといって強行したものだった。
三日前から音信普通の恋人は、今何をしているだろうか。
「いや、その件ですがねぇ…。」
「何だお前。やけに溜めるじゃねぇか。」
嫌な予感が、する。
「生きてはいるんですよ。…だが土方さん、あいつの性癖を忘れたわけではないでしょ?」
忘れたわけではないでしょう?
その一言が言い終わる前に、土方は走り出していた。
…山崎には、ネクロフィリアの一面がある。
土方と付き合いだして落ち着いてはいるが、こんな死体がたくさんあるところ。
どうなっていても、オカシクナイ。
そして、最奥部に到着する。
そこはやはり、土方の想像通りになっていた。
山崎を囲む数人の隊士。
その全部が、死体になりそうなくらい弱っていた。
「あ、土方さん!」
すごく嬉しそうな顔をして寄ってくる山崎に、土方は笑顔を向けることが出来なかった。
「お前…。」
「待ってたんです。ずっと。」
自分が傷つけた仲間にはめもくれず、山崎は土方の元へとかけてゆく。
「退屈で退屈でしょうがなかったんですよ。」
「退屈で済む問題じゃねぇだろ。」
「だって、こんなに血がいっぱい…。それに、」
みんな弱すぎて。
この一言に、土方は理性を飛ばした。
他の隊士に傷を負った隊士を任せると、土方は山崎の手を取った。
「来い。」
「はい。」
奥へと消えていった二人に、沖田は祈ることしか出来なかった。
ひら、と蝶が舞うように山崎が飛び上がる。
それを追うように、土方の剣が空を切った。
それと同時に苦無が飛ぶが、しっかりとした剣筋の相手には通用しなかった。
「少し弱くなったんじゃねぇか?お前。」
そんな土方の問いに、山崎は吹き矢で答える。
「おっと、そんな余裕もねぇか。」
楽しそうに自分に飛び掛ってくる土方は、山崎にとって最高のパートナーだった。
昔からネクロフィリアの気を持っていた山崎は、恋人を片っ端から殺していた。
それが愛だと信じてやまなかったし、彼女(ときどき彼)達も幸せになれるだろうと。
だけど、狭い村に好みの人はごく一握りしかおらず。
欲望を抑えきれなくなった山崎は、全く興味の無い人間にまで手を出し始めたのだ。
それはすぐに村へと響き渡ることとなる。
そしてその愛情は、村では全く認められず、すぐに追い出されることになってしまった。
そこで、土方たちに出会ったのだ。
真選組へと誘われた山崎は、二言返事で頷いていた。
『自分と力も、趣味も同じ人がいる真選組』へ。
土方と山崎はそんな関係だ。
お互いに、決して決定打を与えない。
と言うか、与えられない。
全く職業も特技も違うが、二人の強さは同じくらいだ。
だから、致命傷を与えられない。
だから、致命傷を喰らわない。
ただ、死と隣り合わせなそれは、二人を酷く興奮させた。
「ったく…おれは好きな奴にしか興奮しないのに、なんでも反応するとは…お前変態だな。」
「こんなことしてる時点で、同類でしょ。」
今日もお互いを傷つけながら、お互いを愛しつづける。
「やっぱり、土方さんの血の香りが一番興奮する。」
「光栄なこって。」
綺麗な鮮血が、舞い続けた。
狂ってるんです、貴方も、俺も。