ロンドン





ずっと、小さい頃から、なりたいものがあった。


それになれた人は、とても綺麗な顔をしているのだ。
少しくらい機嫌が悪くたって、次の日には元通り。


そんな幸せが、山崎も欲しかった。


道場に入ってすぐ、土方に言ったそうだ。
「僕は将来、お嫁さんになりたいんです。」と。
しかし、その夢がかなう日など、無いと想っていた。


山崎が成長すると、この世界はとても冷たいものになったからだ。
甘い夢すら見られない、無色の世界。
小さい頃は笑って聞いてくれた夢も、今となっては蔑まれるばかり。


そこで、その人に出会ったのだ。
いつまでも子どものような夢を見つづける人。
いつまでも子どものように振舞う人。
いつまでも、この思いを受け入れてくれる人。
それがいくら敵でも、山崎は構わなかったのだ。





山崎が横を見やると、隻眼の男は笑っていた。
子どもっぽくて、この男のこの表情が山崎は一番好きだった。


「何か面白いものでも見つけましたか?」


女の格好をしているので女っぽく話してやれば、高杉は面白そうに話しだす。
また。笑顔。


「あぁ、あそこを見てみろよ。」


高杉に指されたほうを見ると、そこには必死に駆けずり回っている土方が居た。
口の動きを読むと、どうも山崎を探しているらしい。


それを見ると、山崎もまた笑みを浮かべる。
大人のようで、この表情が高杉は一番好きだった。


「ほんとだ。」
無駄なのにね。


自分のためなら仲間すらも蔑める山崎は、高杉にとっての面白すぎる人間だった。


伊藤とは違う。
彼は私利私欲の為に仲間を売らない。
こいつからいくら真選組の情報を聞き出そうったって無駄なのだ。
口を一文字にし、一言。


『俺が真選組の隊員だから、一緒に居るんですか?』


もちろんそんなわけも無く、高杉が折れて終わる。
なのに、蔑むことはするのだ。


そんな思考の不覚にもぐりこんでいる高杉を見ると、山崎は不安になる。
もしかしたら、自分を騙しているのかもしれない。
子どもほど、人を騙すことが上手い人は居ないから。


山崎はもう一度視線を土方に戻すと、彼は相当イライラしているのか禁煙のはずの場所で煙草を吸っている。
あの人も大概子どもだな。


「おい、いくぞ。」


いつのまにか出発時刻になった飛行機が、飛び立つ準備を始める。
席につくと、近くに土方が居る。


目障りだ、と高杉は想った。
面白いな、と山崎は想った。


そのまま、ロンドンへ行く為に飛行機は離陸する。
高飛び先に宇宙を選ばなかったのは、山崎のわがままだ。
地球が一番好きだから、といって地球の反対側、ロンドンを指したのだ。


そんなわがままなら、いくらでも聞いてやると高杉は想っている。
そんなわがままなら、少しぐらいいいだろうと山崎は想っている。


しばらく他愛のない話をする。
二人とも、目の端で土方を確認するのを忘れない。


早く動け、と高杉は想っている。
まだ待て、と山崎は想っている。


着陸態勢に入った時、高杉が低いうめき声をあげた。
血に染まった山崎は、一言。


「任務、完了いたしました。」






だって、こっちの上司のほうが子どもっぽくて愛しい。



------------------------------
あ、あれ。
意味不明週間に突入しましたか、これ。
補足ですが、二人とも二人のことが好きだったんですよ。
一応はね。
ただ、高杉は復讐の方が大事で、山崎は真選組のほうが大事だったと。
あそこに土方が来なければ二人でしっかり高飛びする予定だったんですよ。
だけど、あ、来ちゃったじゃん、みたいな。
補足してもわからないですねすみません!