土方さん、みて、みて、綺麗!!
普段は艶のある漆黒の髪の毛を染めて、少年は笑う。
染料を使わないそれは、斑だがとても綺麗に映えていた。
しかし、土方の瞳はそれを写さなかった。
ただひたすらに虚無を見つめて、あぁ、と短い返事を返すだけだった。
山崎は、そんな土方の返事にも、喜ぶのだ。
土方さん!土方さん、次はどこへ行きたいですか?
土方は決して山崎を見ず、答える。
山崎が見えていないくせに、やけにはっきり、答える。
みつばの居るところへ。
ダメだ土方さん、俺らは殺しすぎたからもう行けないよ。
じゃあ、世界を壊そう。
はいよっ!
誰もこの光景を見ていない。
誰も二人を見ていない。
誰も、世界を見ていない。
黒い塊がごろごろする中、山崎は金髪の少年だった物を見つけた。
それを見て、笑って、山崎は駆け寄る。
土方には聞えない、小さな声で、囁いた。
この世界は、俺が頂いていきます。
二人羽織
屯所の覆面パトカーに乗り込むと、山崎は力いっぱいアクセルを踏み込む。
それは、この現実から逃げるためじゃなかった。
はやく、はやく、土方の夢を叶えるためだ。
山崎の中では、土方こそが正解なのだ。
それ以外が間違っていて、土方を傷つける物があればそれは悪魔以外の何者でもない。
そんな土方は、助手席で寝てしまっている。
あぁ、これで貴方は俺のものだ。
3つも年下の男にここまで骨抜きにされるとは、山崎自身意外だった。
しかし、この青年はそれに値する力を持っている。
納得できるし、この青年についていかない自分など山崎には認められない。
高速道路に乗ると、深夜なので、誰も居ない。
まるで、世界が土方と山崎のものになってしまったかのような錯覚を覚える。
これが貴方の欲する世界です。
この世界を、貴方に差し上げましょう。
土方の前では子供っぽい少年が、まるで大人のような戯言を吐いた。
その言葉も、土方には届いていないのだろうか。
先ほど起きた土方は、ただただ窓の外を見つめているだけだった。
何か窓にありますか?
山崎が問うても、何も帰ってこない。
しかし山崎は満足げに笑うと、またスピードを上げた。
貴方の世界には、俺すらもいらない。
だから、貴方一人の世界をあげます。
壊して、こんな理不尽な世界、貴方が髪じゃない世界、あの人が居ない世界なんか、俺が壊して見せます。
トイレに行きたい、と言った土方の為に、山崎は最寄のパーキングエリアに寄った。
そこは、深夜と言ってもやはり人間が居る。
愛すべき彼の理想世界を壊された山崎は、車からひらり、と舞い降りる。
待っててください土方さん。
隣のトラックの運転手は寝ていた。
騒ぎを大きく、彼を楽しませるためにはここは大きい音を出すべきか。
軽く、硬い物の口を、その運転手に向ける。
パン
乾いた音がサービスエリアに響き渡った。
隣の車に乗っている土方は、ただただその光景をぼんやりと見ている。
やっぱり拳銃は手ごたえが無くてつまんないや、と山崎はクナイを取り出し、集まった観客に投げつける。
剣を振るう。
クナイを投げる。
拳銃で撃つ。
できる限りの惨劇を繰り広げれば、土方は一瞬微笑んだ。
その意味を知りつつも、山崎はいったん惨劇を止めた。
なにしてんだよ、と土方が問えば、山崎はへらりと笑った。
どうですか、食事の前の、1運動。
山崎から刀を奪い取った土方は、鬼のように全てを切り刻む。
その髪の色が山崎とおそろいになるころには、また二人しか居ない世界が広がっていた。
刀を山崎に押し付けて、土方はトイレへと向かう。
よくやった。
その一言が嬉しくて、山崎は涙を流す。
この瞬間だけ、彼は自分を瞳に写してくれるのだ。
人を殺す快感より。
人と交わる快感より。
人に斬られる快感より。
この一瞬が、何よりも山崎の大切な物なのだ。
トイレから戻ってきた土方は、惨劇の前に戻っている。
彼からまたあの微笑を与えられるためだけに、また山崎は髪の毛を染めるのだ。
あぁ、なんて楽しい喜劇!
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続きます?
続きません?
とりあえずは狂った山崎と狂った土方が書きたかった。
暑くて死にそうです。
だから夏は嫌いなんだって思います。
だからこんな文章が出て来るんだと思う今日この頃。
2009/07/31
Mizuna.K