寝相
山崎は、寒さに一つくしゃみをした。
非番である彼は、昼寝をしていた。
非番といっても特にすることが無かったからだ。
上司に怒られはするもののミントンは勤務中でもできるし、カバディは他の仲間と休みがかぶらないと出来ない。
かといって休日まで働くほど山崎は出来た部下ではないのだ。
なのでお天道様が出ていることに託けて、昼寝をしている。
縁側の、日が一日中当たっているところに布団を敷き、一日を潰すつもりで寝始めた。
しかし、まだ寝初めて少ししか経っていないはずなのに、何故かものすごい寒いのだ。
夜になったのならまだ分かるが、瞼の外は十分眩しい。
おかしいな、と思うが日頃の疲れが出たのかなかなか動けない。
そのまま縮こまっていると、後ろから暖かい腕が回ってきた。
「ぅえ?」
そこでやっと脳みそが覚醒した山崎は、自分の背後にある気配に気がつく。
纏わりついた腕のせいで全く動かない体を動かすのを諦めて目だけで見ると、そこには布団ではなく制服を着た腕があった。
びっくりして顔だけ動かすと、そこには、恋人がぐっすり眠っている。
そして、その恋人が自分のものであるはずの布団をかぶっていたのだ。
「しのはら?」
寝ぼけた声で山崎が呼べば、篠原は無意識に山崎を強く抱きしめた。
その行為に、山崎の心は温かくなる。
「しのはら。」
もう一度呼べば、恋人は目を覚ました。
「あ、やまざきさん。」
その篠原のあどけない顔は、普段夜を一緒に過ごす山崎ですら初めて見るようなものだった。
そこで山崎はやっとこの恋人のことを思い出す。
…そういえば、寝顔を見たのは初めてかもしれない。
いつも自分が寝付くまでそばにいてくれて、起きるともう仕事着に着替えている恋人である。
なので、こんな顔も初めてなのかもしれない。
少し、もったいないことをした。
「ん…珍しいね、篠原が仕事をサボって寝るなんて。」
山崎はそういうと、篠原が慌てて腕の時計を見た。
その時計を横から覗き込むと、山崎が寝始めてから2時間。
そして、山崎の代わりに篠原が出る会議の開始一時間後だった。
「あ…今日、篠原、会議は…?」
「…一時間前に始まってますね。」
時計を見たまま固まる篠原に、山崎は笑い出した。
そんな山崎を篠原はにらみつけている。
その顔は、不機嫌そのもので。
それもまた可愛くてしょうがなくて、山崎は余計笑い出した。
「あはは、ごめん、ただ、普段俺に怒ってる篠原でもこういう事するんだなって思ったら…面白くて。」
「こっちは怒られるだけで済むかひやひやしてるんですよ。」
寝ちゃう篠原が悪いよ、と山崎はいまだに笑っている。
そんな生意気な恋人の口を、篠原は口でふさいでやった。
「だって、山崎さんが気持ちよさそうに寝てるんですもん。」
一緒に寝たくなっちゃうじゃないですか。
珍しく自分に甘えてくる篠原に、山崎は素直に膝を貸してやる。
そのまま、甘い時間に行くかと思ったら。
「篠原!!!」
鬼が、鬼の形相をしながら殴りこんできた。
「てめぇ、会議はどうした!」
「あれ、沖田隊長に体調不良で出れないって伝えといてもらったはずなんですけど。」
「ちゃんと聞いたぞ。お菓子で買収されたから体調不良で出られないことにしといてくれって言われたんだそうだ。」
そんなの通用するか!
怒鳴りながら土方は篠原を引きずる。
ばたん!という大きな効果音とともに襖が閉まった。
「…頑張れ、篠原。」
篠原は、土方に引きずられながら土方に質問していた。
「独占欲ですか。」
つかまれたままの首根っこを余計締め上げられ、篠原は苦しいまま呼吸をする。
そのまま壁に叩きつけられると、一瞬全てが歪んで見えた。
「分かってんだったら山崎を返せ。」
「嫌です。」
「俺の狗だ。」
いえ俺の恋人ですよ。
そう吐き棄てると篠原は会議室へと急いだ。
その時に突きつけられたクナイによる傷に、土方はため息をついた。
あの男は、掴みきれない。
珍しくサボっていた理由は、単純だ。
たまには休みが欲しくなった。
三週間連続で密偵などはざらだが、それが三回続くとさすがに疲労もピークに達する。
そこで、恋人がすやすやと眠っていたのだ。
添い寝したくならない方がおかしいと思う。
沖田隊長はお菓子で買収しておいた。
きっと正直に言いはするだろうが、場所ぐらいは誤魔化しといてくれるはずだ。
それで、一時間ぐらいはかせげるだろうか。
そのまま恋人の隣にに横たわった。
寝相が悪い恋人の布団はとっくのとうに布団としての役割を果たしていなくて。
それを自分がかぶると、久しぶりの睡眠をゆっくりと味わえる気がした。
「おやすみなさい。退さん。」
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好きな人の隣で味わう睡眠は気持ちいいと思います。
私は無いけども☆
ほのぼの篠山が書きたかった。