泣き虫


抱えた物の多さに潰れそうなその時には思い出して。
ずっと繋いできたその手は嘘じゃないから。



卒業式、学校は少し寂しい桃色に包まれる。
哀しい藍色に染まる
新しい生活になど、希望なんかなくなってしまう、一瞬だけ。


山崎は、そんなことを考えながら窓の外を見ていた。
外では仲間達が、最後の別れを惜しんでいる。
自分もその輪の中に入ればいいのだが、それはあえてしない。


山崎には好きな人が居た。
その人と結ばれ、幸せな高校生活を送っていた自信もある。
しかし、今目線の先で泣いているその「男」は、まるで山崎のことを思い出さないのだ。


別れを切り出したのは、山崎からだった。
パッとしない山崎と、学校一のモテ男。
元から釣り合いなんか取れてやしない。


卒業が近づき、進路を見てもそれは如実に現れていて。
地味に就職した山崎と、一発で推薦入試を決めた土方。
どうしよう、と悩む隙もなかった。


彼の為に、別れなければ。


そんなのは山崎のわがままに過ぎないのだが、いかんせん彼らはまだ若すぎる。
そのわがままに気が付くのも、何年先だか解らない。
だから、土方も「山崎のために」別れた。


それも、土方のわがままなのだが、彼らは知らないのだ。


ずっと窓から桜を見ていると、いきなり教室のドアが開いた。
山崎が振り返ると、そこには神妙な顔をした沖田が立っていた。
滅多に見ない泣き顔に、山崎は一瞬だけぎょっとした。


「なにしてるんですか。あんた。」


目線を窓に戻し、山崎はそっけなく言う。
もともと、土方にとても忠誠心を持っていた山崎である。
その敵である沖田が、山崎は少しだけ苦手だった。


「お前こそ、土方は、どうしたんでぇ。」


走って教室に入ったのか、沖田の息は上がっている。
苦しそうに一息つくと、土方の席にどかっと座った。
もう一度だけ沖田を見ると、沖田は山崎を凝視しているのだ。


山崎は苦手であったが、この二人は親友だ。
小学生の時からの知り合いで、山崎のことで沖田に知らないことはない。
逆に、沖田のことで山崎に知らないこともないのだが。


初めてテストで0点を取った日を知っているし。
初恋の相手も知っているし。
沖田が徒競走で二位だった時に泣いたことを知っているのは山崎だけだ。


全部。
儚い思い出だ。


卒業式で少しセンチメンタルになっている山崎は、つめたくなっている。
それも、沖田は知っている。
なにせ、二人の間に、知らないことなど、ない。


「なぁ山崎。俺とお前の間に、隠し事なんて一個もないよな?」
「やだな、沖田さん俺の秘密なんか全部知ってるでしょうに。」
「あぁ、間違いない。」


沖田が一通り笑うと、何故か空気が止まった。
不審に思った山崎は、振り返る。
もしかしたら、不機嫌なまま振り返ってはいけなかったのかもしれない。


山崎は忘れていたのだ。
自分が好きになった女の子にかぎって、女なんか興味ないはずの沖田が惚れる。
そして、結局沖田は遊び飽きて棄てることを。
それがなぜそうなったのかを山崎は知らな過ぎた。



間近にいた沖田に、山崎は唇を掠め取られた。


突き飛ばすと、沖田の身体は簡単に宙を舞う。
睨み付けてやれば、泣きそうな顔をして山崎を見上げている。
なきたいのは、こっちなのに。


「一つだけ、内緒にしてやした。俺、お前のことがす」


山崎が教室を走りだす。
沖田の言葉なんか、聞かない振りをした。


それを見届けて、沖田は山崎の席に座った。
過去をそっと抱きしめて、俯いた。




商店街を走り抜けると、そこには自宅がある。
すれ違う人々が、嫌に幸せそうに見えて。
凄く、悔しかった。


沖田の気持ちがわからなかった自分にも。
自分の気持ちを知りながらキスをした沖田にも。
自分を棄てた土方にも、怒りを感じていた。


でも、もうどうしようもないのだ。


車輪は回りだした。
もう、戻らない。


僕らがであった理由なんか、一つもないなんて、山崎は思っている。
俺らがであった理由がわかれば、こんなに苦しくないんだと、土方は思っている。
全てを、沖田は知っている。


メールが、来た。
鬱陶しいな、と山崎は画面を見た。




There are near you everytime.



山崎に、涙を止めるすべはなかった。














いつも、キミの傍にいる






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さて、だれからのメールでしょうか。
これは読者様にお任せしようかと。

近藤さんだったら間違いなくストーカーですが。
いや、それは考えちゃいけないんだww