愛妻家の朝食
昼過ぎに、珍しく目を覚ました。
いつもなら朝に起き上がるのに、誰も起こしに来ない。
多分、今日が非番だからだろうか。
テレビを付けると、普段は絶対に見る事がないお昼ならではの情報番組がやっている。
そのまま画面を見つづければ、健康番組が始まった。
「果物がタバコの害を少しだけ防いでくれます。」
そういえば最近、土方さんのタバコを吸う量が増えている気がする。
身体に悪いなぁ、と言っても言うことを聞いてはくれない。
しょうがないか、と体を持ち上げて、俺は近所のスーパーへと向かった。
スーパーへ行けば、そこにはたくさんの酢昆布とチョコレートを持った新八君が居た。
軽く声をかけようと思ったら、向こうが先に気がついたらしい。
重たそうなビニール袋を下げながら、こちらへ走ってくる。
「山崎さん、買い物ですか?」
「うん、新八君は終わったところ?」
「はい…凄い量でしょう。」
「万事屋らしいよ。半分持とうか?」
大丈夫です、ありがとうございます。
そう言うと新八君は走っていった。
その先には、銀色をはためかせている、あの人が居た。
あぁ、いいな、ああいうの。
似ているはずなのに、こういうところはぜんぜん似ていないと思う。
土方さんは買い物なんか付き合ってくれない。
まぁ、そういう土方さんだからこそ好きになったのだけど。
この間土方さんが珍しく買い物に付き合ってくれたのだが。
それも、結局自分のマヨネーズのためだった。
そういう土方さんを、俺は愛しているのだと思う。
あまり甘すぎるのは食べないから、さっぱりしたのにしよう。
果物コーナーをきょろきょろ見回して、俺は梨を買うことにした。
さっぱりしてて、なのに少し甘い。
まるで、彼のようじゃないか。
屯所へ帰ると、すぐに土方さんの私室へ向う。
何もないさっぱりとした部屋。
そこに唯一存在する机の上に、置手紙とともに置いた。
「タバコをお吸いになる時は召し上がってください。」
外から副長の叫ぶ声が聞こえる。
たぶん、怒鳴られているのは沖田さん。
毎日毎日、あの人も飽きないものだ。
土方さんは、近藤さんの前でも、沖田さんの前でも。
強がって居なければならない。
それは、副長だから。
だから、その疲れを癒すためだけに、俺はここにいる。
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二択です。
強く握る光…は?
指輪
ナイフ
どちらに進んでも土沖要素が出てきます。
絡みはないです。
沖田が山崎と話しているだけです。
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指輪編
今朝、土方さんは私室に帰ってこなかったのを知っている。
ずっと待っていたのだ。
彼が、俺の、所へ、帰ってくるのを。
しかし、いくら待っても土方さんは来ない。
こんな日が、週に3回、必ずある。
まぁ、仕方がないとは思うのだが。
やはり、恋人の元へ行く土方さんを見るのは辛い。
付き合いは5年も前からだから、俺が土方さんと出会う前。
そんなの、勝ちようがないじゃないか。
いくら愛していると囁かれても、抱きしめてもらっても、キスしてもらっても。
全部、彼になんか毎日してるんだから。
素肌に硬いものが当たる時があるのもそのせいだ。
いつもはちゃんと気を使ってくれるのだが、やはりたまに忘れる事だってあるのだろう。
それに、この間俺の部屋に忘れてすごい喧嘩になってたっけ。
とにかく、月曜日と水曜日と土曜日はこの部屋に居ないのだ。
しかし俺はここで待っていなきゃいけない。
そんなさびしい夜は、一人でただただ待ち続ける。
それが貴方の望だから。
ちゃんと待っていられると、土方さんは俺の頭をなでてくれる。
やっぱり、お前の髪さらさらだな。って、言ってくれる。
この色好きなんだよな、って言ってくれる。
それは、俺にだけしてくれることだから。
俺の髪が長いのも、染めないのも。
ぜんぶ。
貴方のためなの。
土方さんの部屋に座っていると、なぜか水曜日なのに土方さんが帰ってきた。
何も言わずに俺の膝で眠る。
こんな土方さんも可愛いが、やはり理由は聞きたい。
聞いたところでごまかされるだけだろうけど。
隣にいるのは俺じゃダメなんだろうか。
あの人は貴方を傷つけるでしょう。
土方さんの左薬指の光を抜き取る。
これと同じものを、あの人は、しているのだ。
自分の右手で握り締める。
「貴方以外、もうなにもいらないのに。」
ending
ナイフ編
今朝、土方さんは私室に帰ってこなかったのを知っている。
ずっと待っていたのだ。
彼が、俺の、所へ、帰ってくるのを。
しかし、いくら待っても土方さんは来ない。
こんな日が、週に3回、必ずある。
まぁ、仕方がないとは思うのだが。
やはり、浮気をしているのだろう。
あの人のほうが魅力的なのもわかる。
俺なんか地味だし、剣も上手くないし。
でも、選んでくれたのは貴方なのに。
一回問いただした時も、結局ごまかされて終わってしまった。
そんなわけないだろ。
お前だけ愛してる。
聞き飽きたんだ、そんな言葉。
知らないふりをするのに疲れた俺は、梨を剥き出した。
こうやって違うことに集中していれば気もまぎれるだろうし、何より今は暇でしょうがないのだ。
今日は非番のはずの土方さんは、3時になっても帰ってこない。
またあのむせ返るようなあのニオイがするのだろうか。
子供っぽい、甘いけど、血にまみれたニオイ。
旦那も同じようなニオイがするけど、旦那のニオイは嫌いじゃない。
考え事をしながらナイフを動かすと、自分の指を切ってしまった。
暗がりでやってたし、しょうがないと消毒しようとする。
梨が、少し紅くなっていく。
あまりの綺麗な色に、一瞬、俺の思考は止まった。
指から流れ落ちる紅が。
白を汚してゆく。
そして、下に落ちる。
また、見たくなった。
でも、梨なんかじゃ足りない。
もっともっと、綺麗なものを…!
「山崎?なにしてるんだ?」
土方さんを膝の上に寝かせ、髪をなでる。
そういえば、俺も髪をなでてもらうのが好きだった。
初めは短かった髪の毛も、誉めてもらったから伸ばしてみた。
そうやって、俺の世界は全部、全部土方さんによって廻る。
だから俺の世界は、今、紅く染まっている。
あぁ、なんて綺麗なんだろう!!
ところでこんな情景をどう思いますか?
差し詰め勝手気ままな嘘を言いました。
貴方と一緒になんて、嘘だもの。
ふと外を見ると、朝日が昇る。
確かに紅いけど、綺麗だと思わなかった。
まぶしくて、疎ましくて。
俺は手にある光を強く握り締めた。
「もう何も要らないです、俺。」
ending
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ふすまが開く。
いきなりはいってきた大量の光に、山崎は目を細めた。
そこにいる少年の髪の毛の色も、山崎にとっては少しだけまぶしい。
「な…にしてるんですかぃ?」
震えた声が響く。
山崎は、この少年がこんなにおびえていることを知らない。
そんなにこの人を失うのが怖いのか。
自分から土方を奪ったくせに。
だが、山崎も大人だ。
そこまで強く物を言うわけではない。
が。
大人だからこそ、こういうときに言う言葉を知っていた。
振り返る。
膝の上にある頭をなでる。
そして、笑う。
「おはようございます、沖田さん。」
血のにじむ右手をまた握る。
いくら血が滴ろうとも関係ない。
光を、もみ消してやる…!!!
「土方さんならまだ寝てますよ。」
もう何も要らないから。
この人だけ、俺に頂戴?
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